アガサ・クリスティが常連だったという、歴史あるホテルのティールームでの本格的な英国式アフタヌーンティーに、 ロンドンへ出発する前から緊張していた私。 アフタヌーンティーのマナーについて、あれこれ調べていた心配性の私へ友人からのアドバイス。
「楽しんで食べることが一番のマナーかな。」
イギリスを代表する文化のひとつともいえるアフタヌーンティー。
そのルーツは、イギリスの7代目ベッドフォード公爵夫人のアンナ・マリア(1788~1861)といわれています。
当時の貴族は、朝9時頃に「イングリッシュ・ブレックファースト」と呼ばれる盛りだくさんの朝食をとり、
昼食は軽くすませ、夕食を食べるのは音楽会や観劇が終わった夜8時頃からだったそうです。
昼食から夕食までの長い午後、空腹を凌ぐために、紅茶を飲みながらサンドイッチや焼き菓子を食べていたアンナ・マリア。
最初は一人で楽しんでいましたが、親しい友人に披露し、それが宮廷内で評判になり、のちに貴婦人たちの社交として定着していきました。
アフタヌーンティーのルーツについて調べてみて「アンナ・マリア」という女性を初めて知ったと思っていましたが、
実は私たちは気がつかない間に彼女の肖像画を眼にしていたことを知りました。
キリンビバレッジから出ている「午後の紅茶」。みなさんも飲んだことがあるかもしれません。
このパッケージにシンボルマークとして描かれている女性に気がついたことはあるでしょうか。
実は、この貴婦人こそがアンナ・マリアです。今度「午後の紅茶」を手にしたときにじっくりと見てみてください。
渡英前から緊張していたティールームでのアフタヌーンティー。
ケーキ類、スコーン、サンドイッチが3段のケーキスタンドに乗せられて運ばれてきます。
一夜漬けで得た私の知識では、一番最初に下段のサンドイッチ、次に中段のスコーン、
最後に上段のケーキという順番でいただくのが一般的なマナーとされているそうです。
運ばれてきたケーキスタンドには色とりどりのケーキに、スコーン。期待が膨らみます。一方で、
「イギリス料理はマズイ」とか「イギリスのパンはパサパサしている」という話を聞いていた私は、
サンドイッチにはあまり期待をしていませんでした。ところが、良い意味で期待を裏切られることになりました。
それは、初めて食べる「コロネーションチキンサンド」というものでした。
コロネーションは、日本語に訳すと“戴冠(戴冠式)”と言う意味。
茹でた鶏胸肉を細かくほぐし、カレー風味のマヨネーズで和えたもので、
1953年エリザベス女王の戴冠式で出されたイギリスの伝統料理です。
英語圏文化研究室の高島美和先生におはなしを伺ったところによると
「コロネーションチキンは、手軽に作れる家庭料理です。街中のカフェやスーパーでもよく見かけますね。
サンドイッチやジャケットポテトのトッピングとして使われていることが多いです。」とのことでした。
ロンドンオリンピックが開催された年には、日本でも大手サンドイッチチェーン店が期間限定で販売していたそうですが、
まだまだ日本人には馴染みのない料理。コラムの最後にレシピを載せましたので、ぜひ、お試しください。
参考ウェブサイト
ル・コルドン・ブルー →:
コロネーションチキンの誕生秘話
キリンビバレッジ→:
紅茶の話 第4話 英国の王侯貴族と紅茶
参考文献:磯淵 猛(2004)『紅茶辞典』株式会社新星出版
(食文化別館HP制作チーム ・ 新井純子/2016.11.09)
「コロネーションチキン」の作り方
材料
鶏胸肉(皮は使わない) 1枚
(ブライン液)
水 100ml
砂糖 5g(水に対して5%)
塩 5g(水に対して5%)
玉ねぎ 1/2個
サラダ油 大さじ1/2
白ワイン 大さじ1
カレー粉 小さじ1
ケチャップ 大さじ1
マヨネーズ 大さじ2
ヨーグルト 大さじ2
パクチー 適宜 ※お好みで
下準備
1 ボウルにブライン液の材料(水、砂糖、塩)を入れ、よく混ぜる
2 鶏肉を一口大のそぎ切りにし、竹串やフォークなどで穴をあけ、ブライン液に2時間くらい漬ける
3 玉ねぎを、やや細かめのみじん切りにする
作り方
1 鍋に鶏胸肉とかぶるくらいの水を入れて、火にかけ、中までしっかり火を通す
2 鶏肉を鍋にいれたまま冷ます
3 鶏肉が触れるくらいの温度まで冷めたら、鍋から取り出し、こまかくほぐす
4 温めたフライパンにサラダ油、やや細かめのみじん切りにした玉ねぎを入れ、透き通るまでいためる
5 玉ねぎが透き通ってきたら、白ワインを入れ沸騰させてアルコールを飛ばし、カレー粉、ケチャップを加え、よく混ぜる
6 5に、こまかくほぐした鶏肉を入れて、よく混ぜる
7 マヨネーズ、ヨーグルトをボウルに入れて混ぜ、荒熱のとれた6を入れてよく混ぜる
※ お好みで刻んだパクチーを入れる
※日本の鶏肉に比べて、食感が柔らかいイギリスの鶏肉に近づけるため、ブライン液に漬け込み、 鶏肉をしっとり仕上げました。こまかくほぐす作業も、ブライン液に漬けた方がやりやすいです。