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わたしのお店ができるまで

~韓国式かき氷 ブビン~

2016.06.01 連載コラム
季節を楽しむ保存食 img01

 そのお店は、ソウル中心地から少し離れた場所にありました。名前は「ブビン」。ピンス(韓国式かき氷)のお店です。
 店主は、2013年3月に食文化栄養学科を卒業した金 雅延(キム アヨン)さん。 ソウルの大学で調理を学んだ後、世界の食文化を学びたいと思い留学を決意。 「日本は、アメリカやヨーロッパよりも韓国に近いこと、世界の食文化に触れられるから」という理由で日本を選んだそうです。 来日後すぐに日本語学校へ入学し、語学を学んだ後、女子栄養大学 食文化栄養学科3年生に編入しました。
 アヨンさんが大学に入学したのは2011年4月。東日本大震災が起こった直後でした。 通っていた日本語学校の9割の留学生が帰国したという中、日本に残って学ぶことを決めたアヨンさん。 当時のことを振り返ってもらいました。 「周りの友達が、次々と帰国を決めて、正直なところ、少し心細かったです。 私は、両親から帰ってきなさいと言われることもありませんでした。 あの頃は、帰ってきなさいと言われないことに少し寂しい気もしましたが、今では、大学に通えたことをとてもよかったと思っています。」

 ブビンを始めるきっかけを伺ったところ「もともとは、姉が他のお店を経営していて、そこでかき氷がメニューとして販売されていました。 私は、夏休みや冬休みに帰省した時に、姉に日本で食べたかき氷の話をして、アドバイスをするくらいだったんです。 日本で就職しようと思っていたので、就職活動もしていました。 4年生の夏休みに帰省した時、姉から『大学を卒業したら一緒にお店をやらないか』と言われ、 韓国へ戻ることを決めました」ということでした。

 お店のある付岩洞(プアムドン)という場所は、観光客が訪れる定番スポットの明洞(ミョンドン)や南大門、 東大門からは、少し離れた場所にあります。最寄駅は地下鉄3号線「景福宮(キョンボックン)駅」。 北岳山(プガクサン)という小さな山の山間に位置するこの街は、景福宮駅から歩くには距離があり、 上り坂も続くので、バスかタクシーを使っていくことになります。 観光客が訪れるような街でお店を始めなかったのは、「お客様に静かな場所で、のんびりとかき氷を楽しんでもらいたかったから」。 「周りには、お洒落なカフェや雑貨屋さん、美術館や公園もあり、私の大好きな街、日本の吉祥寺に雰囲気が似ているところも、 ここを選んだ理由のひとつです」とのこと。開店当初、日本からのお客様は、月に数える程度しかいなかったそうですが、 最近は1日に1~2組の方がいらっしゃるそうです。 お店を経営していてうれしいことは「有名な観光スポットがないこの場所に、ブビンのかき氷を食べることだけを目的に、 遠くからお客様が来てくださること」。そんなお客様からの「おいしかった」という声が、アヨンさんの元気の源になっているそうです。

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お話を伺ったアヨンさん

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店内にはかき氷の絵を飾っています

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白熊が店のキャラクターです

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店内にも白熊がたくさんいます

 ブビン(부빙)という、お店の名前の由来は、「プアムドン(부암동)にあるピンス(빙수)のお店」。 たくさんの人に覚えてもらえるよう、分かりやすい名前にしたそうです。

 私がお店を訪ねた5月中旬のかき氷メニューは『いちご』『あずき』『キャラメル』『柚子』『抹茶』『ブルーレモン』。 定番メニューで人気があるのは、『いちご』と『あずき』。甘いものが好きな方は『キャラメル』、 甘いものが苦手な方は『柚子』がオススメ。 季節限定の人気かき氷は、春が『梅』や『あんず』、夏は『ブルーレモン』、秋・冬は『かぼちゃ』です。 また、秋・冬はかき氷以外に、おしるこやかぼちゃ粥などの温かいメニューもあるそうです。

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いちごのピンス
いちごのソースが添えられています

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キャラメルのピンス
真ん中には、バニラアイス、トッピングでローストしたアーモンドがかかっています

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あずきのピンス
別添えのあんこ、かき氷に入っている白玉だんごも手作りです

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氷以外は、ほぼお店で手作りしています

 かき氷を作る上で気をつけていることを伺いました。 「最後までおいしく食べていただけるように工夫をしています。韓国には、日本の『天然氷』のようなものがないので、 『純氷』を使っています。氷は、冷凍庫から出したものをすぐ削るのではなく、温度を調節して、 一番よい状態で提供できるようにしています。それから、安心・安全なものを提供したいので、氷以外のものは、 お店で手作りするようにしています。いちごシロップや、あんこだけでなく、練乳も手作りしているんですよ。 素材も、なるべく韓国のものを使うように心がけていますが、海外製品の方が品質がよいものは、そちらを使います。 例えば抹茶。抹茶は、風味のよい静岡産を使用しています。」ということでした。 そんな話を伺っていると、牛乳の配達が。1リットルの牛乳パックが10本以上あったように見えたので、何日分の仕入れなのか聞いてみると 「週末だと1日くらいで終わってしまいます」ということでした。

 「週末は、お店の外に行列ができることもあります」というくらい、人気のお店ですが、 その人気にあぐらをかくことなく常に既存メニューの改良や、新製品のメニュー開発を行っているそうで、 「先日は、奈良県で開催された『かき氷サミット』に行きました。 日本のかき氷を勉強するため、1日に10杯くらいのかき氷を食べたんですよ。」と、笑顔で話してくれました。 現在のお店の看板メニューは、かき氷ですが、お客様から「軽食があるといいのに」という要望があったので、 秋からは、自家製のあんこをつかった「あんトースト」や「パンケーキ」を始められるように準備しているそうです。

 「これから夏に向けて、忙しくなる日が続きます。体力が続くかどうか心配です。」と話してくれたアヨンさん。 在学中と変わらない柔らかくて優しい笑顔の中に、経営者としての力強さが垣間見えました。 常に新しくあり続ける「ブビン」。 これからも挑戦し続けるお店であって欲しいと願います。
 

(食文化別館HP制作チーム ・ 新井純子/2016.06.01)


お店データ
부빙(ブビン)
営業時間:13:00~22:00
定休日:月曜日、旧正月・秋夕(チュソク)の当日
※夏季は月曜日も営業、冬季は、臨時休業あり
住所:ソウル特別市 鍾路区 付岩洞 254-2
(서울특별시 종로구 부암동 254-2)
道路名住所:ソウル特別市 鍾路区 彰義門路 136
(서울특별시 종로구창의문로 136)

電話番号:02-394-8288

アクセス:地下鉄3号線 景福宮駅(경복궁역)3番出口から100M位直進、 「oliva」というレストラン前のバス停から1020、7022、7212に乗って6番目の 付岩洞住民センター(부암동 주민센터 근처)で下車。バス停のすぐ前にお店があります。
(2016年6月現在の情報です)

参考ウェブサイト
Facebookページ→: 부빙(ブビン)

参考文献:高月 靖(2010)『もう一歩奥へ こだわりのソウル・ガイド』河出書房新書