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世界おいしい旅 vol.1

ロンドン ~フィッシュ・アンド・チップス編~

2016.04.13 連載コラム
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 学生のころ読んだ本に、こんな一節がありました。

 『イギリスの食事が、概してまずいことは世界の定評であって、さすがイギリスを愛すること人並以上の私も、 このことは遺憾ながら「ある意味で」認めざるを得ない。』(『イギリスはおいしい』林望著、平凡社、1991)

 「イギリスの食事」イコール「まずい」という印象がなかった私は、とても驚きました。 紅茶やスコーン、イングリッシュマフィン、イギリスパンなど、イギリスを連想させる食べ物が、 どれも、この方程式にあてはまらなかったからです。 しかし、それ以降も目にする情報といえば「イギリスの食事」イコール「まずい」というものばかり・・・。 そんな中で私が心惹かれたのは「フィッシュ・アンド・チップス」というイギリスの伝統的な料理でした。

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スーパーに並んでいるお惣菜は、どれもおいしそう

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スコーンやパンもおいしそうです

 前述の本によると、フィッシュ・アンド・チップスとは、『原則として立食いである。』らしく、 客が注文すると『店のオヤジはカウンターに積んである藁半紙(わらばんし)を無造作に二、三枚とって、 これをぐるっとメガホンのような形に巻き付ける。そうしておいてから、そこに揚げ魚を抛り込み、 シャベルのような道具であきれるほどたくさんのチップスをすくって、魚と一緒にザラザラっと入れてくれる。』 そして『これを受け取ったら、メガホンが壊れぬように注意して下の方をしっかりと握り、 それから必ず店に備え付けてある茶色いモルト・ヴィネガーをジャブジャブという感じで、思い切ってたくさんかけ、 さらにその上から塩をば盛大にふりまく。』こうして、味付けが終わったら 『そのまま店から出て、歩きながら、もしくはそこらのベンチなぞに腰掛けたりして、傍若無人に食べる』 というものだそうで、学生のころの私は、日本では見たこともないこの料理を、いつか本場イギリスで食べてみたいと思っていました。

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ロンドンで最も古い市場「バラ・マーケット」(Borough Market)へ行きました

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市場には、新鮮な野菜や果物が並んでいました

 あれから十数年。ふとしたことから、友人とロンドンへ旅に出る機会がやってきました。 旅へ出るにあたって「ロンドンで何がしたい?」という友人からの問いに「フィッシュ・アンド・チップスが食べたい!」と答えたのは、いうまでもありません。

 もう少し詳しく説明すると、フィッシュ・アンド・チップスは、家庭、レストランやカフェ、パブ(public house)と呼ばれる酒場など、 いろいろなところで食べられているイギリスを代表する伝統的な料理です。 「フィッシュ」は、タラなどの白身魚をベーキングパウダーの入った薄力粉、ビールを入れた衣でカリッと揚げたもので、日本でいう天ぷらのようなものです。 「チップス」は、ポテトチップスではなく、いわゆるフライドポテトです。 塩とモルトビネガー(大麦麦芽が主原料の麦芽酢)をかけて食べるのが元祖イギリス流。 現在は、レモンやタルタルソースが添えられていることが多いようです。 そして、名前には登場しませんが、グリンピースをマッシュしたもの(マッシーピー)か、 そのまま茹でたもの(フレッシュピー)が付け合わせとして必ず添えられています。
 蛇足ですが、私の憧れた藁半紙をメガホンのような形に巻き付けるスタイルは、衛生上の問題から、現在はほとんど見かけなくなり、 持ち帰りをする場合は、発泡スチロールの容器に入れて渡されるそうです。

 肝心の味ですが、想像以上においしかったです。「フィッシュ」は、衣がカリッと揚がっていて、ほんのり甘味がありました。 中の魚はふっくらジューシー。何もかけずにそのまま食べても、しっかり味がありました。 伝統にのっとって、モルト・ヴィネガーをかけてみましたが、こちらはイマイチ。 日本の「酢」とは、まったく違い、酸味がほとんどなく、甘みが強いものでした。 酸っぱいものが好きな私は、ジャブジャブかけて食べたいと思うものではありませんでしたが、酸味が苦手な方は、食べやすいのではないかと思いました。

 「チップス」は、いってしまえば、フライドポテトなので、想像通りの味です。 ただ、日本で食べるものより少し太めで、とにかく量が多い。 写真では伝わりにくいかもしれませんが、じゃがいも1.5個分くらいあったのではないでしょうか。 (魚も某ファストフード店の“フライドフィッシュ”程度のサイズに見えますが、長さ30センチ、幅10センチくらいありました。) 日本人的感覚でいうと、イギリスではどうやらじゃがいもは主食のようです。 あとから調べてみてわかったことですが、国際連合食糧農業機関(FAO)の調査によると、じゃがいもの1人あたりの年間消費量は、 世界の平均が32.6kg、日本が21.3kg(1日に換算すると約60g)、イギリスが112.4kg(1日に換算すると約310g)なんだそうです。 イギリスは日本の約5倍のじゃがいもを食べていることになります。 私は、じゃがいも大国のイメージが強いドイツ(年間消費量72.4kg)やアメリカ(年間消費量62.7kg)よりも、 たくさん食べられていることに、驚きました。

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念願の「フィッシュ・アンド・チップス」
長さ30センチほどあるフライの下に、たくさんのチップスが隠れています

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サバの左側に並んでいる白身魚は、フィッシュ・アンド・チップスによく使われるマダラの切り身

 想像以上においしかったフィッシュ・アンド・チップスを、日本でも作ってみたいと思い、 料理本を専門に扱っている本屋で、イギリスの伝統的な料理が載っている本を購入し、自宅で作ってみました。
 本によると材料は、じゃがいも、タラなどの白身魚とself-raising-flour(あらかじめベーキングパウダーなどが混ぜてある小麦粉)、 cornflour(コーンフラワー)、ビール、塩、揚げ油ということでした。 自宅では、self-raising-flourは、薄力粉にベーキングパウダーを混ぜたもの、コーンフラワーは片栗粉で代用して作りました。 出来上がりは、なかなか上出来でしたが、使ったビールがエール系ではなくラガー系だったので、少し苦味がありました。 コラムの最後に、日本で手に入る材料で作れるようなレシピを載せましたので、ぜひお試しください。

ロンドンの旅は、はじまったばかり。次回は、英国式の朝食と、アフタヌーンティーのおはなしを・・・。

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料理本を専門に扱っている本屋さん

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イギリスの伝統的な料理が載っています

(食文化別館HP制作チーム ・ 新井純子/2016.04.13)


参考文献:林望(1991)『イギリスはおいしい』平凡社
Carolyn Caldicott(2015)『GREAT BRITISH COOKING』(c)Frances Lincoln Limited

「フィッシュ・アンド・チップス」の作り方

材料(4人分)
じゃがいも 中2個

白身魚(タラ、ヒラメ、カレイなどの白身魚) 4切れ
※白身魚以外では、メカジキでもおいしくできました。
塩 小さじ1/4
薄力粉 大さじ1程度

(バッター液)
薄力粉 50g
ベーキングパウダー 小さじ1
片栗粉 25g
ビール 100cc

揚げ油 適量

作り方
1 じゃがいもは皮をむき、1cmくらいの拍子木切りにして、30分ほど水にさらす。途中、水が濁ってきたら、水をかえる。
2 皮と骨を取り除いた白身魚に塩をふり、15~20分おく。
3 2の白身魚から出た水分をキッチンペーパーなどでふきとり、薄力粉を薄くまぶす。
4 バッター液を作る。ボウルに薄力粉、ベーキングパウダー、片栗粉をふるい入れ、ふるった粉の真ん中にくぼみをつくる。 ビールをくぼみに少しずつ注ぎながら、菜箸でよく混ぜる。
5 1のじゃがいもの水気をキッチンペーパーなどでしっかりふき取り、150℃に熱した油で揚げ、 中まで火が通ったらキッチンペーパーを敷いたバットに取り出し、油を切る。(2度揚げするので、しんなりした状態でよい。)
6 バッター液にくぐらせた3の白身魚を190℃に熱した油で揚げる。
(魚を油に入れた後、菜箸やスプーンを使って、バッター液を少し魚にかけると衣にボリュームが出る。)
中まで火が通ったらキッチンペーパーを敷いたバットに取り出し、油を切る。
7 5の火が通ったじゃがいもを、190℃に熱した油で揚げ、外側がカリっとしてきたらキッチンペーパーを敷いたバットに取り出し、油を切る。
8 付け合せとともに、お皿に盛り付けて完成。