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世界おいしい旅 vol.4

チェコ ~クネドリーキ編~

2018.01.30 連載コラム
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 クネドリーキはこれまで食べたどの食べ物とも違っていた。

 チェコの首都、プラハに行ったのはもう四半世紀前の1993年の8月。 ちょうどその年の1月1日0時にチェコスロバキアはチェコとスロバキアに正式分離したばかりだった。 当時パリに住んでいたのだが、急に決めた二泊三日の一人旅行のチェコ行きで、 下調べも不十分ななかで行ったのがル・フレクーだった。 ル・フレクーは、プラハのガイドブックに必ず出てくるような有名ビアホールで、クネドリーキはそこで食べたのである。 店内に目をやると誰もがジョッキのビール片手にクネドリーキを食べている。

 白皿の上に、茶色いソースがかけられた、1cm程度の厚みの円形の白い物体がのっている。 この白い物体がクネドリーキである。 一見したところではその正体は分からず、食べてみても、これまで食べた何に似ているのかも分からない。 少ししっとりと、ふわふわとしている。 あとになって、これがパンの一種であると知ったのだが、食べたその時にはパンのイメージには辿り着かなかった。

 プラハ行きを決めたのは、パリの生活が一年経過するあたりで一度近隣の国にでかけてみようという、ただそれだけの理由だった。 だからそれはプラハでもなんでもよく、たまたま目についた、パスポートに判が押されるなかでもっとも近い国の街だった、 ということだけにすぎない。 滞在中のプラハの街は曇りが続き、今も記憶の残る昼のプラハの印象は、モルダウ川の重い流れと、 そこにかかる煤けた橋、街の中心部から少し離れたところにある均一化した住宅の風景、 そこかしこに売っているカフカにちなんだ土産類などである。 しかし、夜になると街はライトアップされ、通りには操り人形の大道芸が軒を連ね、少しばかり昼よりは浮かれた気分になる。 もちろん、夜になってもカフカにちなんだ土産物には事欠かない。

 そんな小旅行で何を食べたのか、このル・フレクーの度が強くぬるい(しかし、うまい)ビールとクネドリーキ以外には記憶がない。 逆にそれだけが食べたものとして記憶された。

 日本に戻って数年後、突然あの時食べたクネドリーキを思い出し、もう一度食べたいと思った。 作り方を調べ、初めてそれが茹でたパンであることを知った。 材料にも道具にも特別なものは必要なく、作り方も簡単に見えたので早速作ってみることにした。 材料をまとめて捏ね、簡単に整形したのちに沸騰したお湯に入れて茹でる。 生地はお湯のなかでみるみる膨らみ鍋のなかいっぱいになってしまった。 お湯から引き上げて形に切ってみると、とりあえず見覚えのある姿になった。 味は・・・、あの時の味とはまったく違った。 どこをどう改良する、というレベルでなく、何かが根本的に違うようだった。 グラーシュを作ることを思いつかなかったので、なにかボソボソとしたクネドリーキもどきをそのまま食べた。 その時は、クネドリーキの別の作り方を調べることができなかったので、そのあと二度とクネドリーキを作ることはなかった。

 今回、そのクネドリーキを作ってみようということになり、初めていくつかのレシピを比較することになった。 どれが正しいというわけではないので、自分たちにとっての正解をル・フレクーのクネドリーキとグラーシュとして定めた。 結果として、記憶のクネドリーキはあまりに遠く、どれほど近づいたかは分からない。 しかしそれでも、長年記憶の中だけにあったものが、しっかりと今、口の中にある、ということだけは分かった。

(ビジュアル・コミュニケーション研究室 准教授 ・ 平野覚堂/2018.01.30)


「クネドリーキ」と「グラーシュ」

「クネドリーキ」とは
チェコの伝統的なパン。シチューや肉料理に添えられていることが多い。
調理法は、茹でるだけで焼かない「茹でパン」。世界的に見ても珍しい作り方をする。

じゃが芋を使って作る「ブランボロヴェー・クネドリーキ」の他に、果物を入れた「オヴォツネー・クネドリーキ」という デザートタイプものや、イーストを使って作る「ホウスコヴェー・クネドリーキ」がある。

「グラーシュ」とは
ハンガリーの「グヤーシュ」というスープが起原の煮込み料理。
チェコは海のない内陸国で、食文化はオーストリア、ドイツ、ハンガリーなど周辺諸国の影響を大きくうけている。
オーストリア、ドイツ、スロバキア、ルーマニアなどにもよく似た料理がある。
チェコ料理の「グラーシュ」は、シチューに近い。

参考ウェブサイト
パンの図鑑 →: クネドリーキ

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本場チェコのクネドリーキとスヴィチュコヴァー (スライスした牛 フィレ肉にクリームソース、ベリージャムとレモンを添えた料理)
写真提供:2016年度卒 A.H

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「ホウスコヴェー・クネドリーキ」固くなったパンが、ちぎって中に入っている
写真提供:2016年度卒 A.H

「クネドリーキ」の作り方

材料
じゃが芋 200g(約2個)
強力粉 60g
片栗粉 小さじ1
卵 大さじ1
塩 小さじ1/4

作り方
1 じゃがいもは皮つきのままラップにくるんで、電子レンジで柔らかくなるまで火を通す
2 1のじゃがいもが、触れるくらいまで冷めたら、皮をむき、ボウルに取り出し、つぶす
3 2のつぶしたじゃがいもに卵、塩を入れて、混ぜる
4 3のじゃがいもに強力粉、片栗粉を入れ、ボウルの中で生地を混ぜる
5 4の生地がまとまってきたら、ひとまとめにし、円柱に形を整える(直径6cmくらい)
※生地の硬さは、耳たぶより少し硬いくらい。じゃがいもの水分量によって強力粉の分量を増やしてもよいが入れすぎると、出来上がりが粉っぽくなる
6 大きな鍋に湯を沸かし、5の生地を入れ、30分ほど茹でる
※形が崩れる場合があるので、ガーゼやさらしに包んで茹でると、きれいに出来上がる
7 茹で上がったら、水気をよく切り、1.5~2cmの厚さに切る
※包丁でも切れるが、柔らかい生地なので、糸を使うときれいに切れる

「グラーシュ」の作り方

材料
牛すね肉 250g
塩 少々
薄力粉 小さじ1

玉ねぎ 250g (大1個くらい)
バター 20g
塩 少々
キャラウェイシード 小さじ1/2(お好みで)

トマトペースト  大さじ1(18g)
コンソメブイヨン 1個
ローリエ 2枚
パプリカパウダー 小さじ2
オールスパイス 小さじ1/2(お好みで)
クミン 小さじ1/4(お好みで)
水 適量
塩 少々

下準備
1 牛すね肉に塩少々を振り、下味をつけておく
2 玉ねぎを粗みじん切りにする
作り方
1 熱したフライパンにバター、粗みじん切りにした玉ねぎ、キャラウェイシード、塩少々を入れ、あめ色になるまで炒める
2 牛すね肉に薄力粉をまぶす
3 玉ねぎがあめ色になったら、2の牛すね肉を入れ炒める
4 牛すね肉の色が変わってきたら、トマトペースト、コンソメブイヨン、ローリエ、パプリカパウダー、オールスパイス、 クミン、水をひたひたになるまで入れ煮込む
圧力なべで煮込む場合は、加圧して弱火で20分、普通のなべで煮込む場合は、2~3時間煮込む
5 塩で味を整える

(レシピ作成:食文化別館HP制作チーム ・ 新井純子)

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玉ねぎをあめ色になるまで炒めるのがポイントです

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グラーシュとクネドリーキ